固体酸化物形電解セル(SOEC)
ガラスは火星での生命の鍵になるのでしょうか?
他の惑星に生命は存在するのでしょうか? アメリカの宇宙機関NASAは、この疑問に答えるべく、2020年7月に火星に探査機パーサヴィアランスを送り込みました。パーサヴィアランスは2021年2月、7つの独自の観測機器を搭載して火星に着陸しました。これらの観測機器は、これまで以上に火星探索の大きな力になります。なかでも注目されるのはMOXIE(「Mars Oxygen ISRU Experiment」=火星酸素現地資源利用実験。ISRUは 「In-Situ Resource Utilization」=現地の資源を利用すること。)です。この実験は、火星大気中の二酸化炭素から電気分解で酸素を取り出すことを初めて試みるものです。MOXIEには、米国のOXEon Energy社が開発した固体酸化物電解(SOXE)スタックが使われています。宇宙を旅する際、スタックは過酷な条件にさらされます: ロケットの打ち上げや着陸時の振動に耐えるだけでなく、-55℃から800℃以上の温度範囲で機能しなければなりません。OXEon社は、ミッション遂行の間、スタックの高い効率を維持するために、 SCHOTTの特殊ガラスセラミック封止材を採用しています。
MOXIEの仕組み
二酸化炭素を酸素に変換させるために、MOXIEにはOXEon Energy社が開発した固体酸化物電解 (SOXE) スタックが用いられています。その作動要素は、片側に陰極、もう片側に陽極で被膜された、積層した電解セルで構成されています。相互接続されたプレートがガスを分離し、スタックを介して送ります。これらのプレートは、 SCHOTTの耐熱性と気密性に優れたガラスセラミックで封止されています。
電位がかかっている陰極の上を二酸化炭素が流れると、反応が起こり、電気分解されます。一酸化炭素は排気され、酸素イオンはSOXEを介して陽極に電気化学的に運ばれ、酸化されます。酸素原子(O)が結合して酸素分子(O2)が生成されるのです。
ガラス封止は、確実な気密封止で電解スタックを接合します
SOXEスタックの製造工程では、ガラス粉末を溶融し、セラミック電解質と金属インターコネクタ材との結合を形成します。封止ガラスは、金属やセラミックスの熱膨張係数に合わしており、温度が変化しても安定した気密性を保つことができます。さらに、スタックの一部として直列に切り替えられたセルのインターコネクタは、高温でもアルカリを含まないガラスによって電気的に絶縁されています。
SCHOTTのエレクトロニックパッケージング事業部のテクニカルセールスマネージャー、Jens Suffner博士は、「極端な温度と大きな力は、MOXIEにとって大きな課題です。」と説明します。「 500°C以上の温度で、多くのガラスが軟化し、弾性を有するようになります。」 これを防ぐために、 SCHOTTは結晶相が規定された特殊な封止ガラスを使用しています。これにより、火星の過酷な環境下でも、ガラスの気密性と十分な強度を保つことができます。
MOXIEが成功すれば、火星での有人探査に革命を起こすかもしれません。有人宇宙ミッションに必要な呼吸可能な空気を、その場で直接生成することができるのです。生成された酸素は、ロケット燃料生産用の酸化剤としても使用されます。これは、ロケットの帰還を可能にするための課題の本質的な部分を解決することになります。これまで、火星への道のりは一方向だと考えられてきました。